古文書の中のアメリカ大統領

フィラデルフィア空港内の大統領選挙
グッズコーナー(2016年9月8日撮影)

 明日11月3日、4年に一度のアメリカ大統領選挙が実施されます。世界に絶大な影響力を持つ国の指導者を決めるこの選挙、、世界中の注目を集めるものです。

 私は2016年9月にアメリカに出張したのですが、街中で選挙ムードを感じさせる雰囲気だったことを記憶しています。空港にはアメリカ大統領選挙グッズの販売コーナーがあり、Tシャツや帽子、マグネットその他のグッズが豊富に置かれていました。国を挙げてのお祭なのだ、ということが強く印象に残りました。

さて、鉄道の日に、万延の幕府遣米使節団がアメリカの鉄道について触れた情報を、仙台藩領磐井郡藤沢の商人・皆川喜平治が入手していたことを投稿しました。この同じ記事の中では、アメリカの「大統領」に関する情報も記されています。

大統領は、たとえば摂関の職のごときものにて、ほかに国王とあがめる者これあり。必ず血統をもって禅位いたし、大統領は年数これあり退職いたし、官人のうち器量の勝れし者を選び、その職に進めそうろう事。血脈にかかわらずそうろうよしなり。
(注:元の記事を漢字かな交じり文・現代仮名遣いに改めた。以下同。)

 アメリカの大統領を、日本で天皇を補佐して政務に当たる摂政・関白になぞらえています。大統領のほかには血統にあるものが位を受け継いでいく「国王」がいる、というのは事実と違いますが、国王のいるイギリスから独立したという経緯が、国王の存在と誤解されたものでしょうか。武士の使節団なのに関わらず、自らの主君である「将軍」と、それを補佐する「老中」という例えでないことも興味深く思えます。
 一方、大統領は、年数が来ると退職する、すなわち任期があるということを正しく理解しています。また、「官人」のなかから能力に優れたものを選び、年数が来ると退職する、という部分は、「役人から選ぶ」という意味ならば事実誤認ですが、「官人」が「議員」のことならば、イギリスで採用されている議院内閣制との混同か、あるいは現在も続く選挙人制度(当時は、地方の名士や知識人に大統領を選ぶ資格を与えていた)のことを説明しようとしたのかも知れません。

大統領、日々政所へ出座し、政務を励みそうろう。三十人ほどの官人座列し、衆評し、公事を沙汰し、冠頭にて当否をきめ、大統領の聞達を経て、国中へ触れ出しそうろう事。

「政所」とは、すでに存在していたホワイトハウスか、「官人」が議員ならば、「列座して衆評(話し合う)」場所、議会を指すものでしょうか。法令はそこで採否を判断したうえで、大統領が判断して国中に触れ下す、とあります。

政体はすこぶる簡易にして、しかも公にこれある政所へ、貴賎、老若男女構わず入り込み、聴聞いたしおり、もし存意、建白いたしそうろう者これありそうらえば、やがて再評に及び、究理の申し条々あるにおいては、直々取りあげ、かつその者を官人の列に召し加えそうろう仕成と申しそうろうこと。

 身分の高下や、年齢、さらには性別にかかわらず、人々が入って聴いている、ということから、「政所」はやはり議会のことを言っているのかも知れません。人々からの「建白」は評議され、理を究めたものならば、その建白にくわえて本人も「官人」に採用される、としています。江戸時代でも民衆の政治参加が進んでいたことは現代の研究では通説になりつつありますが、それでも農・工・商の身分の者が、武士身分になった上で、政治を司る役職に就くということは限られたことでした。
 さらに、当時は参政権のなかった女性が「政所」に入っているという説明もあります。アメリカでの女性参政権の運動は19世紀半ばから、すなわち使節団が出かけた時期と重なっていますから、何かの動きをとらえていたということかも知れません。なお、今年2020年はアメリカで女性の選挙権が認められて100年目にあたります。

 4年前の大統領選挙は、大方の予想を覆す形で、共和党のトランプ大統領が誕生しました。この4年間、アメリカ社会の分断は深まり、新型コロナウイルスでの危機的な状況の中で、明日、選挙を迎えます。どんな結果になろうとも、古文書にも記されていたような話し合いを通じて、社会が平穏を取り戻して欲しいと思うのですが、果たして…。

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